はじめに:技術はあるのに、クライアントとの会話でつまずいた話
最初に受けたWeb制作案件。
HTMLとCSSにはある程度自信がありました。Figmaのデザインもきれいに再現できたし、レスポンシブ対応もばっちり。
「これで納品すればOKだろう」と思っていたんです。
でも、いざクライアントに提出すると、こんな言葉が返ってきました。
「あれ?なんかちょっと違いますね…」
そのとき、僕は頭の中が真っ白になりました。
「え?何が違うんだろう?」「デザイン通りに組んだはずなのに…」
そう言いたかったけど、ぐっと飲み込みました。

その案件は結局、修正を何度も重ね、納品までに予定の2倍の時間がかかりました。
あとで振り返って気づいたのは、“技術の問題ではなかった”ということ。
足りなかったのは、クライアントとの認識を合わせる“伝え方”や“確認の仕方”でした。
当時の僕は、ヒアリングと言っても「参考サイトありますか?」とか「色は何色が好きですか?」程度のことしか聞いていませんでした。
相手の目的やターゲット、業種や競合、成果物の使われ方、そういった“背景”にまで踏み込まず、「もらった指示通りに作る」ことが正解だと思っていたんです。
けれど、Web制作の現場では、相手の言葉の裏側にある本当の意図を読み取り、わかりやすく説明し、進行全体をコントロールしていく力が必要になります。
僕はフリーランスとしていくつもの案件をこなす中で、ようやくその感覚が少しずつわかるようになってきました。
そして今では、「丁寧に進めてくれるからお願いしたい」とリピートされることも増えてきました。



この体験を通して学んだのは、Web制作の仕事において、「クライアント対応」も立派な“実務スキル”であるということです。
この記事では、以下のような視点で、ヒアリングから納品までに役立つ対応術をお伝えしていきます。
・「技術だけじゃ信頼されない」理由と現場のリアル
・フェーズ別にやるべきクライアント対応とNG例
・実際のやりとりで役立ったテンプレートやツール
・トラブルを未然に防ぐポイントと伝え方の工夫
「技術はついてきたけど、やりとりに自信がない」「修正依頼が増える理由がわからない」
そんな方に、少しでも役立てば嬉しいです。
なぜ技術だけでは信頼されないのか?
僕はかつて、「技術があれば仕事になる」と思っていました。
Progateやドットインストールをやり切って、模写もできるようになり、Figmaのデザインも再現できる。
「これだけやったんだから、現場でもやっていけるだろう」と思っていたんです。
でも、最初の実案件でそれは簡単に崩れました。



クライアントとやりとりする中で、最初に驚いたのは「伝えたことと受け取ったことがズレている」こと。
たとえば「動きがほしい」と言われて、僕はスクロールアニメーションを実装したのですが、相手の求めていたのは「フェードでゆっくり表示されるようなシンプルな動き」だったり。
「いや、そうじゃないんだよね…」
と言われたとき、「指示通りにやったはずなのに…」と心の中で思いました。
でもよく考えたら、指示があいまいだったのではなく、僕の確認があいまいだったのです。
技術的に「できること」と、現場で「信頼されること」は別問題。
僕はこのことを、何度も失敗を繰り返しながら痛感しました。
技術力があるだけでは、次のようなミスを引き起こします。
・クライアントが“あたりまえ”に思っていることを、聞かずにスルーしてしまう
・途中経過を伝えないため、「大丈夫かな?」と不安にさせてしまう
・フィードバックに対して感情的になってしまい、信頼を損なう
特にWeb制作では、「見えない工程」が多いため、相手は進捗や中身がわかりません。
だからこそ、「今ここまでやっています」「次はここを進めます」と伝えなければ、信頼は積み上がっていかないのです。



もう一つ、クライアントとやりとりする中で実感したのは、「伝える順番」や「言い方」が思っている以上に重要だということです。
たとえば、デザインの修正依頼を受けたとき、
「それはちょっと難しいです」ではなく、
「現状の構成ですとやや難しいのですが、◯◯という方法であれば実現可能です」
と伝えるだけで、印象がまったく変わります。
どちらも“できない理由”を言っているのに、後者の方が「考えてくれてる」と感じてもらえます。
つまり、技術力とは別に、伝えるスキル・進行する力が必要になるんです。
このスキルは、誰かに教わる機会が少なく、現場で身につけていくしかありません。
でも、最初から意識しておくだけで、ずいぶん違います。
・「どうすれば相手が安心できるか」
・「このまま進んで本当に大丈夫か」
・「何を確認しておくと後がラクになるか」
こうした視点を持つことで、クライアントとの関係は驚くほどスムーズになります。
フェーズ別|クライアント対応の具体策とポイント
ヒアリング編:「聞き出す力」で案件の7割が決まる



Web制作において、最も重要と言っても過言ではないのが初回ヒアリングです。
正直に言えば、僕はここを甘く見ていた時期がありました。
「色味はどうしますか?」「構成はおまかせでいいですか?」と、ふんわりした質問ばかりして、クライアントの頭の中を汲み取ろうとせず、“言われたことをやる”スタンスだったんです。
結果、納品段階になって「思っていた感じと違うんですよね」と言われ、何度も修正する羽目に。
ヒアリングで必ず聞くべき5つのこと
1.このサイトの目的は何ですか?(例:問い合わせ獲得、集客、採用)
2.誰に届けたいですか?(ターゲットの明確化)
3.どんなトーン・印象を持たせたいですか?
4.納期と優先事項は?(「見た目重視」「早さ重視」など)
5.公開後、自分たちで更新する部分はありますか?
これらを聞くだけでも、クライアントのゴールがクリアになり、無駄な修正が減ります。
ヒアリングシートの活用
僕はNotionやスプレッドシートで事前にヒアリングシートを送るようにしています。
「こういうことまで聞いてくれるんですね」と言ってもらえることも多く、信頼の第一歩になります。
クライアントが“言語化できていない要望”を整理してあげることも、制作者の役割のひとつだと感じています。



僕が使用しているヒアリングシートも共有しておきますね。
② 制作中:報連相が安心感を生む



制作が始まると、つい作業に集中してしまい、連絡が後回しになりがちです。
でも、連絡がない=不安を与えると考えておいた方がいいです。
僕が実践しているのは、週1の進捗報告と中間レビューの習慣です。
進捗報告テンプレ(ChatworkやSlack向け)
お世話になっております。今週の進捗をご報告いたします。 【対応済】 ・トップページデザイン修正(4/10完了) ・下層ページ構成決定(4/12までにFigma反映) 【今後の予定】 ・スマホ対応コーディング(4/13〜) ・WordPress組み込み(4/16〜) 引き続き、よろしくお願いいたします! |
こういったテンプレを活用するだけで、「ちゃんと進めてくれている」という安心感につながります。
修正依頼を受けたときの対応術
クライアントからの修正指示が曖昧な場合、“5つの確認”をセットで返すとズレが防げます。
・修正の意図
・対象範囲(どのページ/どのパーツ)
・ゴール(どう見せたいか)
・優先度
・期日
例:「ヘッダーの動きがちょっと気になります」という依頼に対して
→「具体的にどのあたりの動きでしょうか? スクロール時の固定部分か、メニューの開閉の部分か、または表示速度でしょうか?」
“わかってくれている感”を出すことで、やりとりの質がぐっと上がります。
③ 納品・公開前後:最後の印象が次の仕事を決める
制作が終わって納品のフェーズに入ると、「やっと終わる…」と気が緩みがちですが、最後の対応こそ、もっとも印象に残る部分です。



僕は一度、納品ファイルだけ送って終わらせてしまい、「その後どうすればいいか分からなかった」と言われたことがあります。
納品前のチェックリスト(最低限)
☑️全ページのレイアウトチェック(PC/SP)
☑️外部リンクやフォームの動作確認
☑️SEOタグ(title/description)が適切か
☑️WordPress管理画面の更新テスト
☑️表示スピードの簡易チェック(PageSpeed Insights)
これを表にまとめて「納品チェックリスト」として共有するだけで、「ちゃんとしてる人だな」と思ってもらえます。
納品時の一言で“信頼感”をプラス
以下に納品物をまとめました。 ご確認いただき、問題なければ完了とさせていただきます。 今後の更新や操作についてご不明な点がありましたら、いつでもご連絡ください。 |
この一文があるだけで、「納品して終わり」ではなく「その後も気にかけてくれている」と感じてもらえます。
アフターフォローが次の仕事につながる
納品後、僕は1週間以内にフォローの連絡を入れるようにしています。
「その後、使い心地はいかがですか?困っていることなどあればお気軽にどうぞ。」
このひと手間で、リピートや紹介につながることも多いです。
逆に、ここをやらないと「作ってくれたけどドライな人だったな」で終わってしまいます。
このように、フェーズごとの対応を工夫するだけで、“技術力以上に信頼される制作者”として見てもらえるようになります。
よくある失敗例と“あと一歩”で防げた対策



Web制作の現場では、トラブルの大半が“技術不足”ではなく、やりとりの認識ズレや段取りミスから起きるものです。
僕もフリーランスになってすぐの頃は、「よかれと思ってやったことが裏目に出る」場面を何度も経験しました。
ここでは、僕自身が経験した3つの典型的な失敗と、「あと一歩」意識していれば防げた対応策を紹介します。
① 「デザインOK」のはずが、やっぱり変えたいと言われる
これは初期の案件で実際にあった話です。
Figmaでデザインを提出し、クライアントから「OKです!」と返信が来たので、そのままコーディングに入りました。
ところが、HTMLを組み終えたタイミングで、こう言われたのです。
「やっぱり全体的に明るめの色にしてもらえますか?」
正直、「えっ、もう作り始めてますけど…」と思いました。
でも、僕の側にも落ち度がありました。
「デザイン確定=以降の変更は別料金 or 調整対象になる」という確認をしていなかったのです。
防げたポイント
- デザイン確定のタイミングで「ここで確定です」と明文化
- 可能ならFigmaに承認コメントを残してもらう
- 契約時に「作業確定後の変更は別料金となります」と記載しておく
テンプレ例(確定時)
このデザインをもって正式に確定とし、今後の変更は別途お見積りの対象となります。 ご確認のほどよろしくお願いいたします。 |
文面ひとつ添えるだけで、後からの認識ズレは大きく減らせます。
② 納品後に修正依頼が止まらない
ある案件では、納品後にもかかわらず、「ここの見出し変えられますか?」「もうちょっと色薄くできますか?」といった依頼が何度も来ました。
「このままじゃ終わらない…」と思いつつも、最初の頃は断れず、対応してしまっていたんです。
これも、納品の基準や修正回数を明確にしていなかったことが原因でした。
防げたポイント
- 修正は◯回まで、という明示
- 「これで納品完了です」の定義と確認
- 納品後のサポートは◯日間、または別料金と契約に明記
納品時の文例
本件をもって納品完了とさせていただきます。 今後の追加・修正対応につきましては別途ご相談とさせていただければ幸いです。 |
この一文があるだけで、心理的な区切りがつきます。
③ 連絡が途絶えて、制作がストップする
「ワイヤーを作ったら送りますね」と言われ、その後2週間何の連絡も来ず、進行が止まった案件もありました。
「いつ送ってくれるんだろう…」「催促していいのか分からない」とモヤモヤしつつ、他の予定も入れられずにいたんです。
防げたポイント
- 事前に全体スケジュールを提示し、“主導権”を握っておく
- 各フェーズごとの返信期限を軽く設定しておく
- 「●日以内に連絡がなければ、一時中断とします」と文面化
スケジュール提示例(契約時)
全体スケジュールとして、以下を予定しております。 各フェーズでご確認・ご返信が3営業日以上空いた場合、納期変更の可能性があることをご了承ください。 |



連絡を「待つ」のではなく、「コントロールする」姿勢が、スムーズな進行には不可欠です。
このような失敗を経て、僕はようやく「確認・明文化・段取り」の大切さを痛感しました。
トラブルの多くは“誰が悪い”ではなく、“すり合わせ不足”で起こります。
小さなやりとりひとつひとつを丁寧にすることで、プロジェクト全体が穏やかに進むようになります。
現場で役立ったコミュニケーションツール&テクニック
クライアントワークを通して感じたのは、「どのツールを使うか」ではなく、「どう使うか」で信頼感が変わるということです。
ここでは、僕が実際に活用しているコミュニケーションツールと、やりとりをスムーズに進めるちょっとした工夫を紹介します。
ツールの選定は相手に合わせつつ、主導権は自分に
僕がこれまで使ってきた主な連絡ツールは、次の3つです。
ツール | 特徴 | おすすめ用途 |
Chatwork | ビジネス利用が前提。スレッドごとに整理できる | 制作会社、法人とのやり取り |
Slack | チャンネル機能や通知の柔軟性あり | チーム・継続案件向け |
LINE | カジュアルなやりとり向きだが、情報が流れやすい | 個人クライアントや初回の相談など |
最初の頃は、相手に言われた通りのツールで対応していました。
でもLINEだけでやり取りしていたとき、「あのリンク、どこでしたっけ?」と何度も聞かれるようになり、検索性の悪さや進捗の見えづらさに限界を感じたんです。
そこで、「情報共有だけ別でスプレッドシートを使っていいですか?」と提案してからは、格段にスムーズになりました。
ツールを全部変えなくても、必要に応じて補足ツールを併用することで、自分主導でやり取りを整えていくことができます。
Googleスプレッドシートで“見える進行”を共有
個人クライアントや非エンジニアの方とやりとりする際、「今、どこまで進んでいるか」が分かりにくいという声をよく聞きます。
そこで僕は、以下のようなスプレッドシートを共有するようにしています。
項目 | 状況 | 備考 |
トップページデザイン | 完了 | 4/5 提出済 |
下層ページ構成確認 | 進行中 | 4/7 レビュー予定 |
WordPress組み込み | 未着手 | 4/10 着手予定 |
このように可視化されていれば、相手も安心できるし、「やり取りが整理されている人」という印象を持ってもらえます。
伝え方ひとつで“プロ感”は伝わる
どれだけ丁寧に作業していても、伝え方が雑だと「対応が冷たい」と思われてしまうことがあります。
そこで僕が意識しているのが、「言い回しの工夫」です。
たとえば、こんな感じです。
❌NGな言い方 | ⭕️印象のよい言い方 |
修正しました | 修正が完了しました。お手すきの際にご確認ください |
間に合いません | 少しお時間をいただければ対応可能です |
それはできません | 現状の構成では難しいのですが、別のご提案が可能です |
これらのフレーズは、単に“やわらかくする”というより、「相手の立場を想像する」ことが大切だと感じています。
実感:細かな気遣いが、次の仕事につながる
僕がある制作会社から継続案件を任されるようになったきっかけは、まさに「連絡の丁寧さ」でした。
その担当者からは、
「返事が早くて、内容がいつも整理されているから助かります」
「安心してお願いできるんですよね」
と言われたとき、「技術だけじゃない部分も見てもらえてるんだな」と実感しました。
日々のやりとりは地味ですが、信頼という大きな成果に繋がる“実務スキル”です。
ツールの使い方、伝え方、進行の見せ方、これらを意識することで、他の制作者との差が自然と生まれていきます。
まとめ|クライアント対応も“実務スキル”のひとつ
Web制作を始めたばかりの頃、僕は「良いものを作れば、喜ばれるはずだ」と思っていました。
でも実際の現場では、“何を作るか”よりも“どう進めるか”が問われる場面のほうが多いことに気づかされました。
- 伝え方が曖昧だったせいで、意図がズレてしまう
- 報連相を怠ったせいで、不安を与えてしまう
- 納品のルールが決まっていなかったせいで、終わりが見えなくなる
こうしたトラブルの多くは、「ちょっとした確認」や「一言の補足」で防げたはずのものばかりです。
クライアント対応を通じて学んだのは、「仕事は“人と人”で進む」という当たり前のことでした。
いくらコーディングができても、「この人に任せて大丈夫かな?」という不安が残れば、次の依頼にはつながりません。
逆に、多少スキルが足りなくても、丁寧な姿勢や対応力があれば、「またお願いしたい」と思ってもらえる可能性はぐっと高くなります。
ここまでご紹介してきた内容は、特別なテクニックではありません。
- 最初にゴールを確認する
- 状況をこまめに共有する
- 修正依頼には意図を聞く
- 納品時には区切りを明確にする
- 返す言葉に、少しだけ気を配る
それだけで、クライアントとの関係は大きく変わります。
“伝え方”や“進行力”も、Web制作者にとって立派なスキルです。
僕は今でも、すべての案件が完璧に進むわけではありません。
けれど、「どうすればもっと気持ちよくやり取りできるか?」を毎回考えることで、少しずつ、信頼される仕事ができるようになってきました。



技術と同じくらい、対応力を磨くことが“選ばれる制作者”への近道だと、今ははっきりと言えます。
この経験が、あなたのWeb制作ライフの中で、何かひとつでも役立てばうれしいです。